江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第8回「おやつ」 江本昌子公式ホームページ
江本昌子の
著者:江本昌子
第8回 「おやつ」
毎週木曜日更新
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大学へ進む訳でもなく、家の仕事を手伝う事が決まっていた私は、高校生活を安気に過ごしていた。栄養失調の貧乏人をキャッチフレーズに弁当時間ともなると皆の弁当を食べ回り、一学期が終わる頃にはプンプクリンに肥えてしまった。栄養失調変じて栄養加太な貧乏人。マンモス女子高ともなると、かなりの距離を通学して来る生徒もいて、休日はこの遠方の友人の家巡り。
「きゅうりが沢山できたので取りにおいで」
と、いうことで、通学に二時間かかる田舎の友人の家に友達三人と遊びに行った。電車とバスを乗り継ぎ、山あいの中腹で降りた所に笑顔の友人が待っていてくれた。少し歩いた所に笑顔の友人が待っていてくれた。少し歩いた所に木造の古い社宅がずらりと並んで、やっと着いたぁ、と安堵した。玄関の引き戸をガラガラと開けてびっくり。すごく狭い。手前と向こうの二間だけで、その先に小さな畑が見えるだけ。「あんまり豊かな暮らし向きじゃないなぁ」と、思った。運動靴を脱ぐと、いっぱいの玄関をあがり、奥の日の当たる部屋で私達は他愛もない話しをし、それこそ箸がころがってもおかしい年頃だったから三人で笑いころげていた。
おやつの時間になった。学級委員をしているその友人は、学校でキリリと采配するように、手際よく白い皿を私たちの前に置いた。そしてお菓子の箱からポッキーを二本づつ置き、残ったのは封をして冷蔵庫になおした。ありゃ、これだけ?いつもなら一本丸ごと入れて口を真一文字にしてみせるけど二本やもん。皆でリスの真似して背中を丸め、ちょこちょこっと前歯でかむ。また、それがおかしいと笑いころげ回った。
のどかな休日の午後を彼女の家で過ごしていて気がついた。彼女はこの質素な生活をなんの苦もなく楽しんでいることに。のんびりと慎み深く、見栄をはることもなく、いつものいつも通りのもてなしをする。そこに何かシャキッとした譲らない美学があるような、そんな気がした。街中で育った私がどこか田舎育ちの人を下げずんで見てしまっていた。そして、豊かな暮らし向きでないと思った自分が一番豊かでなく、人を見下し、驕ったみにくい人間であるということに気づかされ、恥ずかしく思えた。彼女の弁当のおかずがいつも梅干と漬物だけなのに、その家で漬けたという梅干も漬物も絶品で、他のどの弁当よりも一番美味しかった。それってきっと彼女の生活全ての底辺に愛情というかくし味がそそがれ格別なものにするのかもしれない。
彼女の道にそれることのない確約とした生き方を見習いたい。そう思い、彼女との親交は今でも大事にしているのである。