江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第10回「加代さん」 江本昌子公式ホームページ
江本昌子の
著者:江本昌子
第10回 「加代さん」
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加代さんという血の気の多い姉御肌の従業員がいた。といっても三女のチャーリー姉さんの友達で借金のかたに働いて返してもらっていた従業員さん。賭け事が好きで借金の上にまた借金。いつまでたっても減らない有様。
だいたいギャンブルに向いてない人で 激情家だからすぐに顔に出る。ポーカーフェイスができない人だから 人相手の勝負はもはや結末がわかるというものである。生活に追われ覇気のない陰気な従業員はいらないと半年でくびになった。
ふくれにふくれた借金をまじめに働いて返すという約束で姉が銀行からかりてきて返済した。
加代さんは実入りのよい遠方へ出稼ぎにいくことになった。
山陰の観光地の温泉宿で朝から晩までの住み込みの仕事。風呂掃除から食事の配膳、皿洗い、夜は芸者までして毎月の返済にあてていた。
一年ぶりに休暇をとって帰ってきた加代さんを見てびっくりした。
激務ですっきりスリムになって見違えるほどきれいになっていた。そしてなんといっても驚いたのが小指の第一関節から先がいなくなっていたのである。
「どうしたの?そのおそろしい指?」
「なあに、板場のやかましい板長と大喧嘩して指つめてやったのさ」
と、すずしい顔。ヒェ〜!いったん頭に血が上ると何をしでかすか分からない人ってこわ〜い。
彼女は その小指が無い方の手でタバコをくゆらせ フーとハデに鼻から煙を吐き出した。まるで人を威嚇するかの様に。そして、その小指が無いことが勲章のように自慢しているかのようでもあった。
「また一年後に遊びにくるからね」と、加代姉御は「あばよ!」と帰って行った。迫力のあるドスのきいた声で。
ある日、皆で食事をしていると、例の加代さんが出稼ぎに行っている所の観光地がテレビに映し出された。そして放送されている宿も彼女が働いてるホテルである。
「ここ、このホテルで働いているんよ、加代さんは」
「へえ〜なかなか美味しそうな料理出しているねぇ、お風呂も大きくてきれいやけど これ掃除するの大変やろうねぇ」
みんなで食い入るように見ていると、お座敷で日舞をひとさし踊っている舞妓はんが三人映った。
「あ〜加代さんじゃないの?これそっくりよ!」
「え〜?あの人こんなしなやかな日舞なんか踊れんはずよ、それとも稽古したんやろうか?」
「それにしても よう似てるよ〜、やっぱり加代さんやろう」
「どれどれ?」
そばで見ていたチャーリー姉さんが一言いった、
「小指あるか?」