江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第13回「けんか」 江本昌子公式ホームページ
江本昌子の
著者:江本昌子
第13回「けんか」
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私の生まれ育った所は下町の歓楽街。表通りに面した我家とお向かいの大衆食堂。あと10軒ばかりの小さな飲み屋が奥へ並んでいた。 店の上の住居が前に張り出していて、丁度凸の字のような形。二階の窓を開けるとすぐ目の前にお向かいの窓があるという変則な造りの路地になっていた。 我が家の前のすじは商店街。肉、魚、野菜とだいたいのものは買い揃えることができた。昭和30年代、下町が元気な頃で人があふれて活気に満ちていた。 お向かいの食堂も良く流行り、いつも長蛇の列。うらやましい限りなのに、閉店後上に上がるといつも夫婦喧嘩。おんどりゃあ、すんどりゃあ、と始まると我が家のテレビはさっぱり聞こえない。 「よう毎日飽きもせず喧嘩できるっちゃね」あきれて姉が言うと 「あれは夫婦のリクレーション。一種の愛情の表し方よ」と父。 それにしても今日の夫婦喧嘩はなんだかにぎやか。ドッチャンバッチャン、物を投げ出した。ピシャッ!突然我が家の窓が思いっきり開く。ぴゅーがっちゃん。向かいの窓から茶碗が飛んできた。ついでに大股開きでおばちゃんも渡ってきた。 「この野郎!てめえ!おぼえとけよ!」これでもやっぱり真っ赤な顔した仁王立ちのおじさん暴言吐いてる リクレーションかいお父ちゃん? この大衆食堂の向かいの商店街に電気屋さんがあった。街頭テレビの時代、力道山の空手チョップに人だかりの歓声が沸いていた。 ある日のこと、この電気屋さんの前で酔っ払い同士の喧嘩が始まった。するとこの電気屋のおっちゃん、二階の窓から「うるさい!今何時とおもっちょるか!?」とワンワン吠えまくる。そうすると日頃 仲の悪い食堂のおじさん負けじと二階の窓から向かいの電気屋「うるさいのはおまえじゃ!だいたい根性が腐っちょる!テレビの野球中継のええところになったらプチンと切りやがって!誰がおまえんとこで買うちゃるかって皆言いよるんぞ!ばかが!」今度は電気屋の向かいの酒屋の二階の窓が開く「それっちゃ!あんなことして商売人のすることじゃないっちゃ!」あっちこっちで罵声が飛び交う。おかげで我家も全員起こされたけどクスクス、と布団をかぶって笑いをこらえるのに苦労した。 |