江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第14回「まむし指」 江本昌子公式ホームページ

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著者:江本昌子

第14回「まむし指」

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人間味溢れる思い出話
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 東京オリンピック開催の年、昭和39年。我家に待望のお風呂が出来上がった。
まだまだ家にあるのがめずらしい時代。大家族の銭湯代もバカにならず父が一念発起で近くの大工さんに頼んだのである。

 ステンレスやホーローといった洒落た風呂はまだでまわってなくて、だいたいが石のタイル張り。それなのにうちの風呂ガマはセメント張り。タイル張る余裕なんてないのである〜。

それなのに父は近所中に風呂を作るから入りに来いと大宣伝してまわり、向かいの電気屋のおっちゃんが、それじゃあ是非一番風呂に入らせてくれと熱望され晴れてこのおっちゃんが選ばれる日となった。

パンパカパーン!今日はめでたい一番風呂の日。セメントがやっと乾いたという日に電気屋のおっちゃんスキップして洗面器抱えてやってきた。お風呂に水をはり、下から火を起こす。湯気が立ってさあ、いざ入浴!はりきってザブーンと湯につかった。

「おお〜、気持ちいい〜」という歓声と同時に 父も私たちも拍手でこの大イベントを喜んだ。「気持ちええかあ?」父が聞くと「う〜ん、気持ちよすぎてじんじんする」うんうん、喜んでもらってよかったあ。
しばらくして「親父さ〜ん。なんだかこのお湯どんどん黒うなりよるよ。ジンジンがひどうなって身体中ひりひりしてきたあ」「ナヌ〜!?」「さっきから石鹸使いよるのに真っ黒になってしびれてきた、恐いからもうあがるよー」

すごすごでてきたおっちゃん 風呂に入ったというのにインド人もびっくりの真っ黒け。ヒイヒイ泣きながらロボットのように固まって帰っていった。よく聞いてみるとセメント張りの風呂は2,3日水を張ってあく抜きをしないと最初の湯は入れないという。へえー、ちっとも知らなんだ。電気屋のおっちゃんありがとね〜。私たち銭湯行って来るからね。


銭湯といえば近所のすし屋の大将が有名。なぜ有名かというとわいせつ陳列罪でしょっちゅう警察に捕まる常習犯だからである。私たちが銭湯に行くため裏通りを歩いていると向こうからふんどし一丁のこの大将が洗面器抱えてやってくる。近づいてくると必ずおもむろにふんどしのヒモをパラリととき、イチモツをウリャ〜と嬉しそうに見せびらかして喜んでいる。「はいはい」慣れっこの私たち、何もなかったかのように‘またか‘で済ますけど、初めての人はそりゃあ警察呼ぶわな。

銭湯にはもうひとつ思い出がある。
生まれた時から私の片方の中指がまむし指でぷっくり膨れているのを案じた母が薬湯につかっては「この指が早く治りますように」と、のばしたりひっぱったりしていたことを思い出す。
チチンプイプイのおまじないもむなしく今だもってまむし指のままであるが大きくなって手相学の専門家に聞いたところ母親と早く死に別れる相といわれそうなんだと、納得した。あのときの母はひょっとしてこのことを分かっていたのだそうか、薬湯に入る度 それを聞いてみたかったと思う今日この頃である。