江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第23回「麗子」 江本昌子公式ホームページ

江本昌子の

著者:江本昌子

第23回「麗子」

毎週木曜日更新

作者へのお便りをお待ちしてます。

        ↓

 運転免許証は高校三年の時、学校運営の教習所で取得した。進学コース、コンピューター専門コース、自動車コースと別れていて、大学へ行かない、就職しない私は当然のように自動車コースを選んだ。

生徒は割安で取れることもあって一台の車に二人乗って援護するシステム。日程通りスイスイと段階を進んでいく私に比べ、相棒の麗子は一段階の外周でまだもたついている。運転不適格者とは、こういう人のことを言うのであろう。後ろに乗っていても生きた心地がしないのである。

外周に数本立ててあるポールは、倒さなくてはいけないものだと確信したかのように見事になぎ倒し、脱輪、脱落は当たり前。丸くカットされた植木がこんもり雪をかぶり静粛なきれいなコースを、右に左に蛇行した二本のタイヤの目をくっきり残して地獄絵にしてみせる。麗子が運転している時は、自分が運転する時より緊張し力一杯足を踏ん張って、シートにしがみつき、ヘルメットまでかぶらされる有様。

結局、一月経っても ちっともうまくならないということで、ついに免許は諦めた。自動車コースに居る意味がなくなった彼女は学校が面白くないのか休みがちになってしまった。
「今度の日曜、麗子ん家に遊びにいこうやあ」
心配で友人と彼女の家を訪れてみた。

電車の本線と支線を乗り継いで二時間かけてたどり着いた家は、山と山に囲まれた谷あいの小さな里にあった。
冬が厳しく
「たくわえてある食料も時々猿がもってっちゃうんよ」と、ほっぺを真っ赤にした麗子は笑いながら言う。

麗しい、美しい、きらびやかな、という意味の「麗」という字から程遠い、いや、しっかり遠い麗子は、この田舎の大自然を栄養に育ったのだから 文明の力には弱いはずだと納得できるほどの景色だ。

彼女は生まれ育ったその田舎より もっと大田舎のところ嫁いでいき、子供をわんさか産んで必殺主婦をしている。

麗子一家は時々 うちの店に来て 私を喜ばせてくれる。何がうれしいってこの大家族が 昔の我が家の匂いと同じだからである。
「よその店にいっても子がこねえおったら何食べたかわからんけど、ここやったら気兼ねしないでいから美味しく食べられるんよ。なにより子供達がここが好きでねぇ」
上手に育てた子供達は、皆素朴で素直、いじくりあげて舐め回して、わたしに至福の時を与えてくれる。遠路はるばるやってくる友情はありがたい。

ふさぎがちだった青春時代はうそのように晴れ、まさにりっぱな日本の母の姿が目の前にいる。彼女にはこれが一番よく似合う。
「猿にもっていかれてた里よりまだ人里離れた田舎やから、たぬき、きつねと戦う相手も増えたんよ」
と、楽しそうにいう麗子には、きっと猿もきつねもたぬきも、そしてだんな様も寄せ付けてしまう人の温もりと愛情の深さがあるのだろう。
「末っ子が今度やっと小学校なんよ、恥かきっ子でかわいそうやけど、、、、、」 
フムフム
下世話な心配は言葉に出さず、小学館のコマーシャルで流れる「一年生になったら♪」を一緒に歌ってみた。その子は麗子に似て真っ赤なほっぺのかわいい女の子。
「一年生になったらあ♪一年生になったらあ♪子供が100人できるかなあ♪」
「えらい!!」少子化対策で頭を抱えているお役人は、この親子にぜひとも表彰状をやるべきだぜ!!!麗という字は私の大好きの漢字のひとつである。


no alt string
no alt string
no alt string
nw&r TOP
江本昌子 TOP
人間味溢れる思い出話
Sale
宝飾品・ブランド品他