江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第26回「ほりっぺ」 江本昌子公式ホームページ

江本昌子の

著者:江本昌子

第26回「ほりっぺ」

毎週木曜日更新

作者へのお便りをお待ちしてます。

        ↓

先日、友人とスーパー銭湯へ行った。雪がちらつく寒い夜、大きなお風呂で身体の芯まであっためようということで即決まった。入り口で入浴券を買い、人でごった返すロビーの受付でロッカーの鍵を受け取り女湯ののれんをくぐった。

あれ?やだ、ひげもじゃの男の人。ん?ここはどこ?私は誰?濃紺ののれんには男湯の文字。男湯ジャン!失礼しました〜!!と、慌てて飛び出た。女湯の脱衣所で悠長に服を脱いでいる女友達に噛み付いた。
「なんでそっちじゃないよって止めてくれんかったそぉ!?大恥かいた〜ねぇ」
「だって自信満々で男湯の方いくからてっきり男湯入るんだと思ったんやもん」
「ナヌ?」
「それに周りの人も誰も不思議がらんやったし」
「え〜そんなあ、こないだは、あっちが女湯じゃったあねぇ」
「毎月男湯と女湯が入れ替わるんよ」
「それを早よ言うて〜や、もう!おかげであたしゃポコチン見ちゃったやんかぁ!」
「そりゃあよかったねぇ」

親友のほりっぺはいつもクールで物に動じない。おっちょこちょいの私には絶対まねできないほどの落ち着きよう。手先が器用で犬の美容院を20年以上もやっている。カット後につけるリボンもあっという間に作ったり、犬用の服もミシンをガチャガチャ踏んでオリジナルなかわいい服が出来上がる。雑巾しか縫ったことのない私には神技もの。店をのぞくとぬいぐるみ?と間違えるほどかわいくカットされた犬が、ワン!と鳴くのでびっくりしてしまう。彼女の手に掛かると皆その犬の魅力にあふれた愛される犬に変身するから不思議だ。きっと犬語がしゃべれるちがいない。

今から5年前、山口県から彼女と一緒に鹿児島まで車で行った。私の大好きな作家の向田邦子特別展というのが鹿児島文学館で模様され、母校、実践女子大に寄贈されている遺品が展示されているという。そうなるともういてもたってもいられず、是非ともとせがんで店を休んでもらって付き合ってもらった。

昭和14年、小学校三年生から約二年間過ごされた向田邦子女史の第二の故郷鹿児島は秋というのに残暑がきびしく、南の太陽の力が瀬戸内とずいぶん違うことに驚いた。文学館でゆっくり時間をかけ、本の中でしか見ることができなかった数々の遺品や作品を目にして向田邦子の世界にどっぷりひたることができ大満足。

それにしても、51歳で亡くなられた凝縮された人生が悔やまれてならない。もっとたくさんの作品が読みたかったと思うのは全国のファンの共通の意見だろう。

遺品のひとつひとつに向田邦子女史の熱い血が流れているようで、空っぽで何も残るものがない私の人生がひどく空っぽに思えた。ここはひとつ、向田邦子女史がよくおっしゃってた言葉を思い出して元気を出そう。

「人生に無駄な人生なんてないのよ」っと

no alt string
no alt string
no alt string
nw&r TOP
江本昌子 TOP
人間味溢れる思い出話
Sale
宝飾品・ブランド品他