江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第29回「キャンプ」 江本昌子公式ホームページ
江本昌子の
著者:江本昌子
第29回「キャンプ」
毎週木曜日更新
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昭和46年。郊外に出したレストランは本格的な西洋料理のチーフを迎えたおかげで店は朝から晩まで大忙し。デミグラスソース、ドレッシング、タルタルソース、何もかもが手作り。味にうるさく妥協を許さない偏屈なところがあるチーフは、ヒレステーキのオーダーを通しても、肉がまだ若いのでもう少し寝かせてからでないと出さないと頑固を押し通す。わたしがマヨネーズを作るのを手伝っていて少し植物油を入れすぎて分離させてしまうとバシッと長バシで叩かれてしまうほどの厳しさ。
どうしてもできなかった手伝いはタンシチューのタンの皮をむく作業。大きなグロテスクな牛の舌の表皮はぶつぶつザラザラでこれだけは気持ち悪くなってきてギブアップ。でもいろいろな料理のワザを教えてもらえてすごく勉強になった。チーフのおいしいまかない食でどんどん肥えていく私達に比べ、野菜スティックしか食べないチーフはガリガリの細々。どこに忙しく動き回るスタミナがあるんだろう。従業員もバイトも増え、皆でよくいろんな所へ遊びに出かけた。ある日、バイトの男の子達の要望でキャンプをしようということになった。女だらけで育ったのでキャンプなんて初めて。
常連客も含めて20人くらいで出発した。県の中央部にある長門峡へ車4台で行き駐車場で大荷物をそれぞれ持ち、奥へ8KM渓谷を散策する。千変万化する奇岩とそびえたつ絶壁。澄み切った渓流が岩門に砕けゴオゴオと響き渡る。樹木は豊かに茂り空気がすがすがしい。テントを張れる砂地の場所は随分と奥まで入った所にあった。さっそく作業に取りかかり、テントを張ったり、石を組んで炊事の仕度をしたり、枝木を集めたり、釣りをしたり。キャンプって楽しいなあ。
ご飯のメニューはカレーライス。
店から持ってきた寸胴の鍋がススで真っ黒になる程煮込み。ハンゴウをずらりと並べてご飯を炊く。ご飯が炊けると、ハンゴウをひっくり返し底をポン!と叩いて出来上がり。大自然のロケーションをバックにして食べるカレーはすこぶるおいしい。
「やっぱり清流の水で炊いたご飯はおいしいねえ」と口々に言っていると
「あれ?この川の水でご飯炊いたん?」と、チャーリー姉さんが聞く。
「そりゃそおよ、おいしさが違うやろぉ」
「ありゃ、わたしゃ上流でうんこした〜ね」ボコボコに殴られたチャーリー姉さん。涙を流して笑い狂っている。なんでも便意をもよおしたので入り口にあるトイレまでトボトボ引き返してたけどめんどくさくなって途中でしたと白状した。
もおぉ〜
この人、いろんな所で「旅の記念にお土産置いていくぜ」と言ってはトイレへ駆け込む癖がある」。スイスの山のてっぺんでしたお土産は高山病になりかける程の難産だったというのが、この人の自慢話。自慢かい!!
あれから何十年という時が経ったが、今でもあの頃のチーフ特製の料理が懐かしい。
又、チーフの作られる美味しいカレーが食べたいなと、思った。あの恐ろしいキャンプのカレーライスじゃないやつを。