江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第50回「寅さん」  江本昌子公式ホームページ

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著者:江本昌子

第50回「寅さん」

毎週木曜日更新

作者へのお便りをお待ちしてます。

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昨年の秋、娘と寅さんのふるさと、葛飾柴又へ遊びに行った。無職になって初めての東京はそれまでと違って時間に余裕があってのんびりできる。

「お母さんどこ行きたい?」と全面的スポンサーの娘。大好きな舞台は観たし、ショッピングもした。目的の無いお江戸の雑踏は疲れるだけなので、ここはひとつ、寅さんの柴又でほっこりしようと思いついた。

 東京東部のはずれにある葛飾柴又帝釈天は日曜日と七五三が重なり参道は観光客と参拝者で溢れかえっている。軒の低いお店が連なり、呼び込みの声も手伝ってまるでお祭りみたい。帝釈天まで続く石畳が足に優しく草団子屋さんやいろいろな店を見て回った。


「ここでお昼にしよう」と入った食堂はちょうど丁度寅さんの映画撮影が行われたお店で、店内には懐かしの寅さんのポスターがシリーズごと貼られていた。偶然にしてはラッキー!

「お母さん何食べたい?」人の奢りとなると遠慮しない私。
「うなぎとビール!」しかし、このうなぎが待てど暮らせど出てこない。
「きっと、矢切の渡しがある、そこの江戸川で釣っとるんよ」
「そやね」ちびちび飲んでた生ビールが無くなる頃やっと運ばれてきた。お腹いっぱい栄養を付け、さあ次は帝釈天と寅さん記念館。

  映画の山田洋二監督は我が故郷の誇り。青春時代をこの土地で過ごされ、その時寅さんのモデルとなった行商人と巡り合った、というのを地元新聞で知ったので寅さんには格別親近感がわく。

寅さんが産湯をつかったという帝釈天を拝観し、鳴らされた梵鐘の音を聞いていると‘ピィ〜!‘

  ん?私のお腹まで鳴りだした。何、何?お腹が暴れだした。えらいこっちゃ。トイレ、トイレと駆け込みフ〜と落ち着いたが、ものの数分で又、又ピィ〜。エ〜ン。
 寅さん記念館に着いても見学するはしからゴロゴロピィ〜。これじゃあ観光巡りなのかトイレ巡りなのかさっぱり分かんない。お陰で私しゃ柴又のどこにトイレがあるかすっかり把握しちゃったもんね。ありがとよ。

  大都会、東京は活気に溢れて素敵な魅力に溢れた街だが生活するにはそれなりのエネルギーがいる所。イソップ物語の都会のねずみと田舎のねずみのように、私も田舎へ帰ることにした。

 その頃伊勢の赤福の問題が連日報道されていて、柴又の草だんご屋さんにも賞味期限は大丈夫かというのをテレビで見た。 
 あら私達が食事したお店だわん。そうそうこの店、このテーブルやったと懐かしく見ていた。
 「柴又の草だんごに偽りはありません」大将は胸をはって大言されている。
 「草だんごはええから。うなぎを突っ込まんかい」

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