江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第61回「てんとう虫」(前編)」  江本昌子公式ホームページ

江本昌子の

著者:江本昌子

第61回「てんとう虫」(前編)

毎週木曜日更新

作者へのお便りをお待ちしてます。

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電車に乗って2時間半もかかる遠く離れた地に母の入院している病院がある。
国立の結核専門の病院で病状にあわせた病棟がいくつも並んで建っていた。
母のお見舞いは病気が病気だけになかなか面会することも出来ず、やっと許可が出ても上の姉達だけ連れて行き 幼い私や兄は家でお留守番。初めて一家総出でお見舞いに行けるようになった時には私は3才になっていた。
物心ついて初めてのお見舞いは嬉しくて今でも当時の事が鮮明に思い出される。
大きな病院にやっと着き そこから少し離れた海べりの土手を歩いた所に木造校舎のような造りの隔離病棟があった。
患者との面会は30センチ四方の木わくを上に持ちあげて顔を見せるだけで まだじかに触れ合える事は出来なかった。
上の姉から順番に母に声をかけていき最後に私の番。
幼い私はその覗き窓に背もたわず父に抱えられて母と面会するのだが困った事に母の顔がわからない、
6人部屋のどの患者が母かわからない。
「母ちゃん どこにおるそ?」「右のいちばん窓際 いちばん奥が母ちゃんじゃからの」と父に念を押され

「母ちゃ〜ん昌子よ〜」と大きな声で躰じゅう窓に突っ込んで元気よく言った。
右奥の窓際の母はベットにちょこんと座り こっちを向いて手を振ってくれてるんだけれども窓からの日差しがまぶしく
逆光になって母の顔は真っ黒でよく解らない。
これが母ちゃんよと教えられていたアルバムの母はポッチャリ美しいのにガリゴリに細くなったシルエットしか見えず
おかしいなぁと思った。
『あっ母ちゃんが泣いてる』細いシルエットの肩が上下にプルプルと震え涙を拭いているのが解る
私は何か言ようとしたが父に引っぱられて木わくを閉められて終わった。

(続く)

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