江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第62回「てんとう虫」(後編)  江本昌子公式ホームページ

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著者:江本昌子

第62回「てんとう虫」(後編)

毎週木曜日更新

作者へのお便りをお待ちしてます。

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暫くして体力を戻した母は一般病棟に移ることができた。
今度は一緒に居ることが出来る、だっこしてもらえる。嬉しいなあ〜。
大家族のお見舞いは狭い病室に入りきらず いつも近くの海までお散歩。
瀬戸内の浜に続く松林を抜けると穏やかな凪の海がキラキラ光り輝いて広がる。
高い空にピュ〜ルルーと鳥がさえずり白い砂はザクザクと足が取られるほど深い。
母とお話しがしたい、甘えたい、触れていたいと思ってるのに上の姉達がまぶれ付いていて私の入る余地など無い。
チェッつまんないのぉ私はうちあげられてるヒトデを海に投げたりして母の後ろをトボトボと付いて行っていた。
「あっ てんとう虫だ!」草むらに赤い虫が動く。
よく見ると背中に黒い斑点が 可愛い〜 私はそのてんとう虫をパッと両手で包み込むようにして捕まえた。
やったあー、捕れたあ これで母に甘えられる、これで母に喜んでもらえる。
走って母の前に行った「母ちゃんてんとう虫よ 今そこにおったんよ」と両手を母の前に差し出した。
すると母は私の両手をゆっくりひろげ
そこにいるてんとう虫を見てピシャッと私の手を叩いた。
ブ〜ンてんとう虫は羽音をたてて飛んでいっちゃった。
「なんで?折角捕ったのにぃ」
「あのね昌子,この世に産まれた生き物のせっかくの命を人間の手で殺すようなことはしてはいけませんよ、賢い昌子ならわかるよね」
厳しい顔つきの中に慈愛に満ちた優しい瞳があった
「うん わかった」
私が母から受けた初めての教訓は意味じくも命という母が熱望してやまないことであった。
母は病室での別れを嫌い いつも病院の玄関で私達を見送ってくれる。
駅までの長い一本道。振りかえっても振りかえっても母はそこに居て何度も何度も手を振り「母ちゃん もうええよー部屋に帰りー」と
叫んでも動かない。この角を曲がるともう母が見えなくなる。
私達は一生懸命ジャンプしておもいっきり手を振って小さく見える母と暫の別れをした。
てんとう虫の背中の斑点が5つなら幸運で7つなら不幸と大人になって聞いたことがある。
誰が何の根拠があってそう言い出したのか知らないが てんとう虫にとっちゃあ迷惑な話し
私は5つであろうが7つであろうが そんなのどうでもいい。なんといっても私と母がより近く心を通わすことができた宝物。
褒美に斑点100こあげたいほど感謝している
今でもてんとう虫を見つると当時のことが思い出されて心がキュンとしめつけられるのである。

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