江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第67回「タクアン」 江本昌子公式ホームページ
江本昌子の
著者:江本昌子
第67回「タクアン」
毎週木曜日更新
作者へのお便りをお待ちしてます。
↓
10年前、嫁姑問題で離婚した。18年間長男の嫁としてつかえたが、些細なことで喧嘩をし「これ以上我慢しなくていいから実家に帰っちょき」と娘に言われそのいきおいで家を飛び出た。離婚して苦労している二人の姉を見てたので絶対自分は離婚しない!帰る家は無いと心に決めていたが、もろくもタガははずれてしまった。
義母はかくしゃくとした躾けに厳しい人で、新婚初日の洗濯物の干し方悪いと、実家に抗議の電話を1時間もかけ姉たちに「えらいこっちゃね〜」と言わした。
良き嫁であろう、完璧な嫁であろうと努力をしたが、ある日ぴっしゃりやーめた。世代も価値観も180°違う二人に同じ答えが出る訳ないぜと開き直り、悪い嫁、悪妻、ダメな嫁で通した方が変な力がぬけて平和でおれるということに気がついた。
うちの親戚は,婚家のことを尼寺と呼んでいた。子どもが小さかった夏休みのある日、大雑把な六女んとこの姪っ子、典子と佳子が尼寺ツアーで泊まりに来た。姑がうるさいからパジャマは持ってきてねと電話で念をおし、「うんわかったあ」とキャピキャピの返事、晩ごはんは子どもたちが食べたいという焼きそばとご飯と味噌汁とタクアン。そんなのおちゃのこさいさいで作り、さあ「いっただぁきまぁす」という時、「これがご飯ですか」姑が目を吊り上げてきつくいう。せっかく皆んなが来たのに、ご馳走でもてなしてあげてという善意な意味で言っているのだろうけれども、やっぱり言い方にトゲがある。シーン、パタパタとしらけ鳥100万羽飛ばしてしまって、静か〜な晩ご飯。佳子なんか、ポリポリとタクアンのかじる音が鳴りひびいちゃってあわててゴックンと飲み目を白黒している。さぁさぁ、お通夜のような晩ご飯も終わり次はお風呂タイム。
「パジャマ持って来た?」 「うん持ってきたよ」とナップサックの底からボールを2個出した。「ん?」「ほらこうするとパジャマ」とそのボールをベリべりバリバリとひきのばすとしわしわのパジャマになった。あ〜れ〜 洗濯脱水したまんま、干した アイロンもかけてないダンゴパジャマ。だめだこりゃ!あれ以来尼寺ツアーは皆一回ぽっきりで二度と泊まりに来てくんない。「あん時は、おばあちゃんの視線がするどくて、ビシバシ背中に100本矢がささった状態で食べたわよ、タクアンで死ぬかと思った」と佳子は言うが、姑としては、ご飯のおかわりはどうかしらと、もてなしの精一杯の心配りで見ていたのであろう。一緒に暮らさないと解らない空気である。腹の中はなにも無いのに思ったことをズバズバと言い上手が言えない分少し損をしているように思えた。それでも躾けの厳しかった義母には感謝している。年配の方の主義主張を受け止める間口が広く、年寄りの気持ちの解る優しい子供に娘を育ててくれた。親の私の事はほっておいても、元婚家の墓参りや法事には手伝いに帰ってくる。子供たちには別れてつらい思いをさせているが私の18年間は無駄ではなかったなあと思っている。いや絶対そうだと確信している。