江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第70回「チコ」  江本昌子公式ホームページ

江本昌子の

著者:江本昌子

第70回「チコ」

毎週木曜日更新

作者へのお便りをお待ちしてます。

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昭和46年に高校を卒業した私は そのまんま上の姉から代々やってきたスナック「チコ」のお手伝い。
初デビューした私に皆口々に「まだ下がおったんかい」と言う。そうなの七女なの、ラッキーセブンの7、7並べの7、七福神の7、七たん いちころの7。結婚式の親族紹介なんか長女二女と続いていってポコッと7番目に長男が出てくるもんだから次の私が何女かもうわからなくなる そうなると大きく手を挙げパーとチョキにして見せて「七女の」となる やれやれ。

スナック「チコ」は家賃ゼロ人件費ゼロついでに色気ゼロで中々効率がいい、おつまみも凝っていて地蟹を茹でたり鯨の尾のみもあったりして豊富な食材を揃えていた。料理が得意な孝子姉が作るのだが この人よく来られるお客さんに「何しましょ タコですか?」といつも聞く「君は僕がお品書きを見る前に必ずタコですかって聞くけど そんなにタコみたいかあ?」と遂に怒っちゃった。仕方ない どう見てもタコなんだもん。
ある日 冷蔵庫の下に当時飼っていた愛犬モクが頭を突っ込んで毛むんじゃらのお尻を出して もがいている。「おぉ可哀想に動けんようになって」と満伊子姉が引っ張り出したら長ーい鼻先が出てきてチュー !ギャ〜!モクじゃなくて超巨大ねずみ!その場で卒倒しちゃった。
客質に恵まれアットホームにやっていたが 中にはちょっとそのスジから外れた客も来る、3人連れでいかつい感じ、酒が進んで血の気も多くなって「わりゃあっ」と大きな声をあげた。困ったなあ クールに怒っている満伊子ママは「おんどりゃあ」の一声でビールの正の字を一本ピッと引き「すんどりゃあ」で又ピッと書き加える「ママお勘定!」「5万5千円です」って一番恐いのはママだった。
今でも時々このチコの下町時代の夢をみる。お人好しの父の尻拭いでどうしようもない貧乏なのに皆が揃って明るく笑って過ごせた。天国にいってしまった父ちゃん母ちゃん そして茶里姉さん明子姉さんに夢で逢えるのも私には嬉しいかぎりなのである。

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