江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第83回「屋根ころがし」 江本昌子公式ホームページ
江本昌子の
著者:江本昌子
第83回「屋根ころがし」
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昭和30年代 下町の遊園地は子供であふれかえり あっちもこっちも、男の子も女の子もいろんな遊びに皆 夢中。うちの兄弟も多いが周りにも子だくさんの家が多く 家から溢れ出てきたように遊園地は賑わい子供らの社交場となる、小学高学年のよそのお兄ちゃんが野球をする時には 滑り台に連れて来た小さい妹を置き そこに居る子たちが当然のように面倒みるのがお約束。わがままや意地悪なことをする子には遊んでもらえないという事を身をもって教え上下の関係が保たれる、皆が平和に遊べるルールを自然と作っていた。 この遊園地の横に お米屋さんがある、大きな屋根が立派でしょっちゅう屋根ころがしするのに借りていた。「今日は〜屋根ころがししてもいいですかあ?」と店先で吠えると奥から「どうぞー」と声がしてゲームは始まる。2番〜 5番〜とボールを屋根に投げ 落ちてくるボールを取るゲーム。屋根が大きいので端から端まで走りまくってボールを追いかける。落としたら罰として張り付けでボールをぶつけられる遊び。今 思うと さぞかしやかましかったろうなあ〜本当じゃま!ごめんなさい!である。この「屋根ころがし屋」さん、じゃなかった お米屋さんに同級生の男の子がいる。彼はすぐ隣の遊園地に遊びに出てくることもなく ひたすら家でお勉強。彼の家に小学3年か4年の頃 何度か遊びに行ったことがある。何で呼ばれて家にあがりこんだかは忘れたが広い家だなあと思った記憶はある。お茶とお菓子を出され山積みの本の説明を聞いて読んだ気持ちになっていた。凄いなあ これだけの本の内容をスラスラ言えるなんて よっぽど熟読してないと云えないなあ、私はもっぱら少年サンデー少年マガジンならまかせ!おそ松くんの兄弟は全部言えるぜ!ってとこなのに、やっぱり神童と称賛されている彼とは頭の構造が違うんだと思った。6時になるとミュージックサイレンが鳴る、月光仮面の時間だ。テレビがある魚屋さん家に全員集合しなければ。「じゃあね」と帰ろうとすると彼は話し足りないのか もう少し居て 晩ご飯食べて帰りなよ、と執拗に私を引き留める。その淋しそうな悲しそうな 訴える目がドキッと胸に突き刺さり私を困らせる、そのどんよりした空気が重過ぎて手を振り払って家を出た。それ以来彼の家に遊びに行ったことが無い。その事が原因ではなく、やっぱり私には外で走り回ってる方が性に合ってると単純に思ったからである。昼間から灯りをつけないと暗い彼の部屋で聞いた本の主人公はいずれも皆 色白の運動音痴に聞こえて困ってしまった。彼は成績優秀なまま一流大学を卒業し 地元の大企業に就職したが心の病にかかり離職したと聞いた。一瞬あの時の悲しそうな目が思い出されてせつなかった。
Hiroko Live → http://www.youtube.com/watch?v=QcbehEi7CjE&NR=1